今回は、ホストクラブで高額なツケ(売掛金)を作ってしまった女性が、どうすればいいのかについてお話しします。
ホストクラブとは、男性が女性のお客さんとお酒を飲んだり、話を聞いたりするサービスを提供するお店ですよね。
しかし、ホストクラブには、お客さんに嘘をついたり、脅したりして、お金をたくさん使わせる「悪質ホスト」がいることが問題になっています。
悪質ホストに騙された女性は、後で払えないほどのツケを請求されたり、売春を強要されたりすることがあるんです。
2023年11月には国会でもこの問題について審議されました。
悪質なホストクラブ利用被害 相談体制整備求める法案提出 立民 | NHK | 国会
このような場合、ツケは本当に払わなければいけないのでしょうか?
実は、ツケは取り消せる可能性があるのです。
しかし、それは特定の条件下で、法的な手続きを経る必要があります。
また、売春を強要された場合、それは法律により厳しく禁じられています。
被害者には警察や専門の支援機関に相談すること強くおすすめします。
この記事では、ツケを取り消せるケースと、その方法について、分かりやすく説明します。
もくじ
1)ツケ(売掛金)とは何か?
2)ツケを取り消せるケース
①詐欺や脅迫を受けた場合
②違法な金利が設定されている場合
③客が未成年者の場合
④消滅時効が成立している場合
3)ツケに悩んでいる場合の対処法
1)ツケ(売掛金)とは何か?
ツケとは、ホストクラブでお客さんが飲食したり、ホストと一緒に過ごしたりする代金を、その場では払わずに、後日払うことを約束することです。
ツケは、お店やホストがお客さんにサービスを提供する代わりに、お客さんがお店やホストに支払うべきお金のことです。
ツケは、お客さんが利用したときに支払いに同意したら、法律上の契約になります。
そのため、ツケは原則として、期日までに支払わなければなりません。
しかし、ツケには、支払わなくてもいい場合もあるのです。
2)ツケを取り消せるケース
ツケを取り消せるケースとは、ツケが無効になるか、支払い義務が消えるか、どちらかになる場合です。
ツケを取り消せるケースには、次のようなものがあります。
①詐欺や脅迫を受けた場合
ホストがお客さんに嘘をついたり、脅したりして、お金を使わせることは、詐欺や脅迫という犯罪です。
例えば、「結婚するからナンバーワンにしてくれ」と言って、結婚するつもりもないのに、お客さんに高額な指輪やドレスを買わせることや、「お金を払わないと、お前の家族や会社に電話をするぞ」と言って、お客さんにお金を払わせることなどが、詐欺や脅迫にあたります。
このような場合、ホストやお店が提供したサービスは、不法な理由でお客さんからお金をもらったことになります。
このようなサービスは、不法原因給付というもので、お客さんはホストやお店に対して、そのお金を返してもらうことができます。
つまり、ツケは無効になります。
刑法第246条(詐欺)
1. 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の拘禁刑に処する。
※拘禁刑は2025年6月1日から施行
(懲役刑と禁固刑を一本化する形で)
刑法222条(脅迫)
1. 生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処する。
2. 親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
第708条 (不法原因給付)
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。
※民法708条不法原因給付について
不法な原因(詐欺や脅迫)ために給付をした者は、その給付(ホストやホストクラブへの多額の支払い)したものの返還を請求することができない。
つまり、原則として取り返すことはできません。
ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、(詐欺や脅迫を受けたのが女性客のみの場合)この限りでない。(取り返すことができる。)ということです。
②違法な金利が設定されている場合
ホストクラブでは、ツケに対して、利息や遅延損害金というものを請求することがあります。
利息や遅延損害金とは、ツケを払うのが遅れたときに、お客さんがホストやお店に支払うお金のことです。
しかし、ホストクラブの中には、利息や遅延損害金を法律で定められた金利よりも高く設定しているところがあります。
(利息の制限)
利息制限法第1条
金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
一 元本の額が十万円未満の場合 年二割
二 元本の額が十万円以上百万円未満の場合 年一割八分
三 元本の額が百万円以上の場合 年一割五分
例えば、ツケが10万円だったとして、利息が年利20%だとすると、1年後には12万円になります。
しかし、利息が年利100%だとすると、1年後には20万円になります。
このように、利息や遅延損害金が法律で定められた金利を超えている場合、それは違法な金利というものです。
違法な金利は、公序良俗(社会のルール)に反するということで、その金利部分が無効になる可能性があります。
しかし、元本のツケは依然として支払う必要があります。
違法な金利が適用されていたとしても、元本の支払い義務は免れません。
この点に注意が必要です。
③客が未成年者の場合
ホストクラブで飲食したり、サービスを受けたりすることは、法律上の契約です。
契約をするときには、契約する人が成人であることが必要です。
ここでいう、成人とは、20歳以上のことです。
日本の法律では、一般的には18歳以上の者を成年とします。
しかし、アルコールの提供やホストクラブの利用など一部の行為については、20歳以上の者を対象とすることがあります。
20歳未満の人は、未成年者ということになります。
未成年者が契約をするときには、親や保護者などの同意が必要です。
同意がない場合、契約は取り消すことができるものになる可能性があります。
(未成年者の法律行為)
民法第5条
1 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 第1項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。
しかし、未成年者がホストクラブでツケを作った場合、そのツケが自動的に取り消されるなるわけではありません。
また、未成年者が「成人です」と嘘をついて契約した場合、その契約が無効になるかどうかは、具体的な状況によります。
このような場合、法的な助けを求めることが重要です。
(制限行為能力者の詐術)
民法第21条
制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。
未成年者はホストクラブに行かないようにするのが一番です。
これは、未成年者自身の保護のためです。
未成年者がホストクラブでツケを作ることは、法律的にも倫理的にも問題があります。
この点に注意が必要です。
未成年者の皆さん、自分自身を守るために、法律を理解し、守るようにしましょう。
④支払いには、期限があります。
期限とは、ツケを支払わなければならない日のことです。
期限が過ぎても、ツケを払わない場合、ホストやお店はお客さんに対して、ツケを払うように求めることができます。
しかし、期限からある期間が経過すると、ホストやお店はお客さんに対して、ツケを払うように求めることができなくなります。
このように、期限からある期間が経過すると、ツケの支払いについては、消滅時効が成立します。
消滅時効とは、一定期間に使われない状態が続いた権利が消滅するという制度です。
ツケの消滅時効は、飲食代金に関する債権として、5年と定められています。
つまり、ツケを作った日から5年が経過すると、ホストやお店は法的にツケの支払いを強制することができなくなります。
(債権等の消滅時効)
第166条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
1. 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
2. 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
しかし、その間にツケの支払いを女性客が約束したり、一部でも支払ったりすると、時効期間はリセットされます。
(時効の中断事由)
第147条 時効は、次に掲げる事由によって中断する。
一 請求
二 差押え、仮差押え又は仮処分
三 承認
また、時効は債務者(女性客)が主張しなければ成立しません。
時効の成立を主張することを「時効の援用」といいます。
時効の援用をされると、ホストやお店はツケの支払いを求めることができなくなります。
(時効の援用)
第145条 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
しかし、女性客が消滅時効の5年を知らずに「ツケ」の支払いを続けた場合、その支払いは有効となり、女性客はその支払いを取り戻すことはできません。
この点に注意が必要です。
3)ツケに悩んでいる場合の対処法
悪質ホストによる高額なツケ請求に悩んでいる女性は、どうすればいいのでしょうか?
このような場合には、まずは一度、国民生活センターや警察に相談することをおすすめします。
国民生活センターは、消費者の権利を守るために、無料で相談を受け付けてくれる機関です。
警察は、詐欺や脅迫などの犯罪に対して、捜査や逮捕などの法的な措置をとってくれる機関です。
国民生活センターや警察に相談することで、ツケの支払い義務があるかどうか、ツケを取り消す方法は何か、ツケの支払いを免れる方法は何かなど、専門的なアドバイスをもらうことができます。
また、国民生活センターや警察に相談することで、ホストやお店からの嫌がらせや脅迫を防ぐこともできます。
ツケに悩んでいる女性は、一人で悩まずに、早めに相談することが大切です。
まとめ
今回は、ホストクラブで高額なツケを作ってしまった女性が、どうすればいいのかについてお話ししました。
ツケは、原則として支払わなければなりませんが、詐欺や脅迫を受けた場合、違法な金利が設定されている場合、客が未成年者の場合、消滅時効が成立している場合など、ツケを取り消せるケースがあります。
ツケを取り消すには、弁護士や国民生活センター、警察などの専門機関に相談することが必要です。
ホストクラブは、楽しい場所であると同時に、危険な場所でもあります。
どうしてもホストクラブを利用したいときには、自分の支払い能力を超えないように気をつけましょう。
また、悪質ホストに騙されたり、脅されたりした場合には、一人で悩まずに、早めに相談しましょう。
ホストクラブでのトラブルは、早めに対処することが解決のカギです。