日本の公衆浴場、特に銭湯や温泉では、タトゥーや入れ墨を持つ人々の入浴を制限する場合がありますよね。
これは、タトゥーや入れ墨が暴力団や反社会的勢力と関連付けられるためです。
しかし、外国人にとってタトゥーや入れ墨は文化や風習の一部であることもありますよね。
このため、「外国人お断り」の銭湯が法的に許容されるのか、という問題が生じます。
この問題については、一律に外国人を入浴拒否する行為が不合理な差別と見なされる可能性があります。
その結果、それが社会的に許容される範囲を超えていると考えられる場合、それは違法行為となる可能性があります。
今回は、「銭湯での外国人お断り」について考えてみたいと思います。
【もくじ】
1)銭湯での「外国人お断り」の背景
2)銭湯での「外国人お断り」の法的根拠
3)銭湯での「外国人お断り」の違法性
4)銭湯での「外国人お断り」の対策
1)銭湯での「外国人お断り」の背景
日本では、古くから入れ墨やタトゥーは、暴力団や反社会的勢力の象徴とされてきました。
そのため、銭湯や温泉などの公衆浴場では、入れ墨やタトゥーがある人の入浴を制限する自主ルールを設けるところが多くありますよね。
これは、入れ墨やタトゥーがある人が入浴すると、他の客が不快になったり、安全や秩序が乱れたりする恐れがあるからです。
しかし、外国人には、入れ墨やタトゥーが文化や風習の一部である場合もあります。
例えば、ニュージーランドのマオリ族やポリネシアのサモア族などは、身体に入れ墨を施すことで、自分の出自(生まれ)や信仰を表現しているそうです。
また、欧米やアジアの一部の国では、入れ墨やタトゥーはファッションやアートとして広く受け入れられていますよね。
こうした外国人にとって、入れ墨やタトゥーがあるだけで入浴を拒否されるのは、不当な差別や排斥に感じられるかもしれません。
しかし、一律に入れ墨・タトゥーがある人を入浴拒否する行為が不合理な差別と見なされるかどうかは、具体的な事情や状況によります。
その結果、それが社会的に許容される範囲を超えていると考えられる場合、それは違法行為となる可能性があります。
ただし、これは一概には言えません。
具体的な法的な問題がある場合は、専門の法律家に相談することをおすすめします。
2)銭湯での「外国人お断り」の法的根拠
一方、銭湯や温泉などの公衆浴場を経営する事業者には、営業の自由があります。
つまり、誰を入浴させて、誰を拒否するのかという選択は自由にできるということになります。
しかし、その自由にも制限があります。
法律上、事業者は、伝染性の疾病にかかっている人や、違法行為や風紀を乱す行為をする恐れがある人に対しては、入浴を拒否することができます。
しかし、入れ墨やタトゥーがあるだけで、これらの事由に該当するとは言えません。
また、日本は、人種差別撤廃条約や国際人権B規約という国際条約に加入しています。
これらの条約は、人種や国籍や民族などの理由で、人権を侵害するような差別を禁止する条約とのことです。
日本国憲法 第十四条
1. すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
つまり、外見が外国人であるというだけで入浴を拒否するのは、これらの条約や憲法に反する違法な人種差別といえるかもしれません。
しかし、入れ墨やタトゥーがある人全員を一律に入浴拒否するのは、公平さに欠け、社会的に許される範囲を超えていると言えるかもしれません。
しかし、これも一概には言えず、具体的な法的問題によることになります。
3)銭湯での「外国人お断り」の違法性
「外国人お断り」の措置が銭湯で行われた場合、それは違法であるという判断が過去に裁判で下されました。
具体的には、2002年に小樽市のある銭湯が、外国人または外国人に見える人々の入浴を一律に拒否した事例が存在します。
この銭湯に入浴を拒否された人々は、損害賠償を求めて訴訟を起こしました。
札幌地裁は、この銭湯の行為を不合理な差別と判断し、社会的に許容できないものとして違法と認定しました。
その結果、銭湯の運営会社に対して、原告3人に対してそれぞれ100万円の賠償を命じる判決を下しました(札幌地裁2002.11.11判決)。
この判決は、控訴審でも支持され、確定しました。
この判決では、銭湯の公共性や外国人の入浴マナーについても触れられています。
銭湯は、公衆浴場法によって規制されている民間施設であり、その公共性が高いと認識されています。
そのため、事業者は、マナー違反者を退場させるなど、可能な限りの努力をするべきであり、全ての外国人の利用を一律に拒否することは明らかに合理性を欠くとされています。
さらに、外国人の入浴マナーについては、事前に説明するなどの対応が可能です。
したがって、銭湯での「外国人お断り」は、違法な人種差別であり、営業の自由に基づく措置とは言えません。
この事実は、我々が公平で公正な社会を築くために重要な考慮事項となります。
※ 憲法は国(や地方公共団体)が守るべき法、民法や刑法などは私人が守るべき法です。
そこに憲法を適用したという意味でも特別な判決だったといえます。
4)銭湯での「外国人お断り」の対策
銭湯での「外国人お断り」は違法であるということがわかりましたが、では、どのように対策をとればよいのでしょうか。
一つの方法は、入れ墨やタトゥーのある人に対して、貼り紙やシールなどで隠すように求めることです。
これは、入れ墨やタトゥーがある人の入浴を完全に禁止するのではなく、他の客の目に触れないようにすることで、不快感や安全感を保つことができるという考えです。
しかし、これにも問題があります。
入れ墨やタトゥーが大きい場合や、隠しにくい場所にある場合は、貼り紙やシールでは対応できませんよね。
また、入れ墨やタトゥーを隠すこと自体が、差別や恥辱(ちじよく=はじ、はずかしめ)と感じられる場合もありますよね。
もう一つの方法は、入れ墨やタトゥーのある人に対して、個室や貸切の浴場を提供することです。
これは、入れ墨やタトゥーがある人の入浴を可能にしながら、他の客との接触を避けることで、双方の利益を守ることができるという考えです・・。
しかし、これにも問題があります。
個室や貸切の浴場は、限られた数しかなく、予約や料金が必要な場合もありますよね。
また、個室や貸切の浴場を利用することで、外国人が特別扱いされていると感じられる場合もあると思います。
まとめ
銭湯での「外国人お断り」は、入れ墨やタトゥーがある人の入浴を禁止する自主ルールに基づくものです。
しかし、これは違法な人種差別であり、営業の自由にもとづく措置とは言えません。
銭湯での「外国人お断り」は、裁判でも違法であると判断されました。
銭湯での「外国人お断り」の対策として、入れ墨やタトゥーのある人に対して、貼り紙やシールで隠すように求める方法や、個室や貸切の浴場を利用する方法がありますが、これらにも問題があります。
銭湯での「外国人お断り」を解決するには、事業者と外国人との間に、相互理解や寛容さを持つことが必要なのではないでしょうか。
銭湯は、日本の文化や風習の一部であり、多くの人に楽しんでもらいたいものですよね。
銭湯での「外国人お断り」は、銭湯の魅力を損なうだけでなく、日本の国際的なイメージにも影響を与える可能性があります。
銭湯での「外国人お断り」は、違法であり、やはり、やめるべきものですね。