分かりやすい身近な法律の話

楽しく分かりやすく身近な法律を中心に説明します。

【前編】死刑囚 最期の半日

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死刑とは命を持って罪を償う刑罰です。

日本の世論調査の結果では8割以上の人が「死刑もやむなし」と回答しているとのこと。

今回は死刑執行についてお話ししますが、できるだけあまり知られていない死刑の実態についても伝えたいと思います。

【もくじ】
1)死刑総論
2)独房での生活
3)死刑の告知後
4)死刑前の1時間
5)刑務官について

※ 2)から読んでもOKです。

1)死刑総論

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日本の死刑は絞首刑(俗にいう首吊り)で行われます。

これはなぜだと思いますか?

理由は絞首刑では、比較的安楽に死に至ることができるからです。

踏み板が外され死刑囚が落下したとき、その衝撃で大脳に血液を送る非常に重要な血管である頸動脈が閉まり脳死を引き起こすと言うメカニズムです。

ぶら下がって4〜10分もあれば死に至るとのこと。

また死刑の失敗は許されないため、死刑囚の身長と体重を測り、同じ重さの砂袋を使って事前に何度も練習をするそうです。

そして、今からさかのぼること72年、1952年のこと。

東京大学名誉教授で医学博士の古畑種基氏は、絞首刑により死刑囚はすぐに意識を失うということを発表しました。

それで安楽に死刑囚が死ねる!

絞首刑を日本の裁判所が支持し、現在の死刑執行は絞首刑になったという、歴史的な経緯があります。

また死刑にかかるコストがあまりかからないと言う説も・・。

そして安楽  ≒ 残虐ではないと言うことで憲法36条の規定する残虐な刑罰は当たらないと最高裁判所からいくつもの判決が出されています。

憲法第36条(拷問・残虐刑の禁止)
公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。

ところで、死刑はどこで行われると思いますか?

「警察署ではありえないし、裁判所も違うし、そうだっだ!常識的に考えれば刑務所か!」

そう考えたあなた、半分正解です。

死刑が行われるのは全国で2カ所の刑務所と5箇所の拘置所です。

刑務所は❶札幌、❷宮城、拘置所は❶東京、❷名古屋、❸大阪、❹広島、❺福岡の5か所です。

なかでも、葛飾区小菅の東京拘置所は有名ですよね。

拘置所とは、なんだかよく分かりにくいのですが、簡単に言えば処刑を待つ人や裁判を待つ人が入るところです。

(似たようなものに留置所というのがありますが、留置所とは警察に捕まった人が入るところです。)

また日本の刑法に死刑になり得る罪は19ほどあります。

ただ実際に起こりそうな罪はそう多くはありません。

人が住んでいる家に放火した場合(現住建造物等放火罪)や殺人を犯した時(殺人罪)や強盗して人が死んでしまった場合(強盗致傷罪)など主に残虐な犯罪では死刑になる可能性があります。

また唯一刑罰が死刑の犯罪行為があります。

それは外国と通じて日本の国に武力行使をさせた場合(刑法3条外患誘致罪)が刑法典にはありますが過去に適用になった者は存在しません。

それから1つ伝えておきたいのが、死刑執行状況です。

訴訟法上、裁判で死刑判決が確定したら6ヶ月以内に法務大臣は死刑執行の命令をしなければなりません。

刑事訴訟法第475条
死刑の執行は、法務大臣の命令による。前項の命令は、判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない。

そして5日以内に死刑が執行されることになります。

刑事訴訟法第476条
法務大臣が死刑の執行を命じたときは、5日以内にその執行をしなければならない。

しかしこのようなケースはほとんどありません。

何故かというと、あなたがもし法務大臣の立場なら理解できるのではないでしょうか?

死刑執行の命令を嫌がる法務大臣も少なくないんです。

言うなれば死刑執行命令=職務上の殺人命令なので嫌がる法務大臣がいることも理解できますよね。

もう一つの理由は死刑囚には裁判をやり直す再審を求める権利があるからです。

ただ、再審が棄却されてからからも再審請求を繰り返す死刑囚もいるからです。

近年、死刑が執行されるまでの年数が長くなっています。

しかし裁判で死刑が確定した以上、死刑執行も厳格に行うべきとの批判も出ています。

2023年12月28日時点で、刑事施設に収容中の死刑確定者は106人で、2023年中に3人が病気などで死亡し、3人の死刑が新たに確定しました。再審請求中の者は61名です。

死刑確定者リスト | データ・資料 | CrimeInfo

また、2000年から2022年7月26日時点で死刑が執行された人数は98人でした。

また、2021年には579件の死刑が執行され、2022年にはそれが53%増の883件となりました。

死刑の執行件数の推移 | nippon.com

この数字を見てあなたはどう思いますか?

2)独房での生活

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①死刑囚は、各拘置所等によって異なりますが3畳ほどの独房(単独房)で過ごします。

逃走したり、自傷、自殺を防ぐために24時間、カメラで監視された生活を送ります。

外の景色はほとんど見えませんが、今では冷暖房も完備されています。

基本は居室の中で座って過ごす。

また、髪型も服装も自由。

髪型はある程度の清潔感があればOKです。

服装は襟付きや金属の飾りが付いていなければ大丈夫です。

これは自傷や自殺を防ぐためのきまりです。

また時間制限もあるもののラジオを聴くことができます。

ジュースやマンガの差し入れがあったり、新聞も自費で買うことができます。

そして驚くことに獄中結婚が認められているとのことです。

面会が弁護士や親族に見られているので恋人と結婚することで面会できるようになります。

また取材のために獄中結婚し、会ってメディアが話を聞くこともできるというわけです。

手紙は出したり、受けたりすることもできます。

居室での自慰行為も認められており、カメラで監視されてはいるものの、慣れればなんともないとのことです。

むしろ変な興奮感を感じるとか。

このように時間を潰すのが得意な人にとっては拘置所内の生活はかなり快適なもののようです。

しかも、刑が何年も執行されないものだから、このままの生活がしばらく続くと思う人もいるようです。

ところでなぜこんな自由かというと、死刑は生命をうばう最も重い刑罰です。

命をもって罪を償う刑罰であるため、死刑囚の心情を配慮した扱いを受けることができるのです。

また逆に精神的に病んだり、変な宗教に目覚めたり、新しいことを始めたりする人もいるようです。

何せ1日長いわけだから、読書や瞑想、写経やスピリチュアルなことを始めるなど、人それぞれのようですね。

また希望すれば封筒貼りなどの軽作業をさせてもらうことができ、最高月に4,000円〜5,000円にはなるようです。

3)死刑の告知後

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法務大臣の死刑執行命令が出たならば、死刑執行が行われます。

「おい205番、ちょっと来い。」

当日の朝9時頃になって突然、死刑囚の元へお迎えの刑務官たちがやってきます。

死刑は当日告げられるのです。

事前に伝えておくと、眠れなかったり自殺を図る死刑囚がいるからというのが一般的な理由です。

出房指示に従い、独房を出る時は、何かの途中でも何もかもそのままで、出ていきます。

暴れてしまったり腰を抜かしてその場から動くことができなくなる死刑囚も結構いるようです。

こういった場合には刑務官に無理矢理引きずられて出房することになります。

また土曜、日曜、祝日、12月29日〜1月の3日の執行はなく、そこはしっかりお役所仕事のようですね。

刑事訴訟法第178条
死刑は、刑事施設内の刑場において執行する。日曜日、土曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日、一月二日、一月三日及び十二月二十九日から十二月三十一日までの日には、死刑を執行しない。

思うより長くなってしまいましたので続きは【後編】を設けてお話したいと思います。

【後編】もぜひお読みになって下さればうれしく思います。

長文読んで頂きありがとうございました。